千葉NT・SIE教員の日記

東京電機大学・情報環境学部(SIE=School of Information Environment)の教員・伊藤俊介のブログです。建築デザインコースの担当。ツイッター名は「itoh_shun」です。
小中学生のSNS使用:保護者向け講座を行って

先週末、キャンパスのある印西市で、PTAの小中学生保護者向けSNS講座の講師を務めた。プロジェクト科目の一環でもあり、学生が使うデータや資料の準備をして、当日のワークショップのスタッフをしてくれた。

テーマは小中学生のSNSの使い方と保護者の関わり方である。

 

【ワークショップでの学生たち】

 

*    *    *


SNSをできるだけ安全に使うためのガイドや一般的な留意事項をまとめたウェブサイトはパンフレットは色々ある。これらは安全対策の参考にはなるものの、生活の中でどう使うかについては、どちらかと言えばどうやって子供が使うのを制限するかという視点が強く、正直言ってあまりピンと来ない。保護者が頭を悩ませる、子供にケータイ・スマホをいつから持たせるか、どのように使うかといったことは家庭によって方針が違うし、「正解」があるわけではない。それに対して一般論で答えるのは難しい。

 

そこで今回は、ワークショップ形式でやってみた。ディスカッションを行い、市内の小中学校いくつかの協力を得て行った実態調査をのデータを見ながら考える形式である。実態調査は今回の講座のために行ったものである。それぞれの家庭で方針を決めるにせよ、自分たちの地域で子供が実際にどうSNSを使っているかは知りたい情報ではないだろうか。

 

◎ワークショップの様子
ワークショップでは参加者はグループに分かれ、子供のSNS使用について気になっていること、困っていること、知りたいことなどを話し合った。出てきた話題はポストイットを使って整理し、発表して共有する。これは最近、さまざまなところで使われている方法である。

 

保護者の方々は、「いつから使い始めるか」「安全に使うにはどうすればよいか」のような一般的なことから、「子供の方が使い方に詳しいので、どう使っているのか把握できない」「子供のアカウントをフォローして内容を見ていたが、ブロックされた」のような切実な声まで、テーブル毎に活発に話し合っていた。保護者同士が情報交換する場にしたいという意図もあったので、この方式は良かったと思っている。

 

学生たちもテーブルの間をまわりながら、ディスカッションに加わった。年齢的には保護者と中学生の間なので、どう思うかや、SNSの具体的な使い方、安全対策の方法などを聞かれていたようだ。学生からは、子供同士の口コミで使い方は広まっていくこともあるので、安全対策について子供同士でも話題にすると良いといったアドバイスや、子供が勝手に課金しない方法の伝授などもあって、SNSと馴染んで育ってきた世代には助けてもらった。

 

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【コメントをどんどん書き出す】

 

◎実態調査から分かること
やはり、中学校入学がSNSを使い始める契機となる人が多く、SNSを使っている割合は小学校高学年では25%程度なのが、中学生になると8割近くに上り、圧倒的にLINEが多い。これは予想していた結果である。また、小学生はほとんどの場合家族との連絡が目的だが、中学生になると友達・同級生とのコミュニケーションや、部活や塾の連絡に使うようになり、これも実感として分かる。

 

ケース数がそれほど多くなく、あくまでこの地域・学校のデータではあるが、保護者にしてみれば気をつけるべき結果がいくつか出てきた。

 

− セキュリティの意識は高くない
LINE、facebookのメジャーなものでは、7割が実名登録していた。そのうち個人情報の表示・検索から外す、 公開制限をかけるといった安全対策をしているのは半数程度で、3〜4割はそもそもそうした対策を知らなかった。

 

− 友人間のトラブル(図1)
SNSでのトラブルや被害の経験について聞いたところ、自分が原因で対人関係のトラブルになった例も含めて一定数がそうした経験をしていることが分かった。ところが小学生と中学生で比較すると、中学生は相手の発言や行動が原因のトラブルとほぼ同程度、自分が原因の場合も回答しているのに対して、小学生は自分が原因のトラブルを挙げた人は皆無であった。自分も加害する側になりうるという認識がまだ育っていないようなのである。

 

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【図1 トラブルの経験】

 

− 男女によるリスクの違い(図2)
知らない人からの攻撃や詐欺・架空請求については、男女で大きな差があった。女子は15%程度が知らない人からの攻撃的・不快なメッセージを受け取ったことがあるのに対して、男子はほとんどなかった。

 

実名登録している人が多いことを考えると、女子だと分かると攻撃的・不快なメッセージを送りつける人物が出てくるという問題がはっきり見える。もちろん生徒が悪いのではなく、送る側が責められるべきである。しかし残念ながらそういうリスクが女子には高いのが現状だといえる。ここまで明らかに、性別によって晒されているリスクの差が出るのは驚きであった。

 

一方、詐欺・架空請求が来たことのある割合は逆に男子が女子よりもずっと高かった。男子は閲覧、登録しているサイトから何らかの形で情報が流出しているというのが、私たちの推理である。

 

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【図2 SNSでの被害経験】

 

◎保護者の出番
こうして見ていくと、セキュリティや繋がる範囲の設定はやはり保護者の助けが必要だといえよう。「最終的には子供を信頼するしかない」というコメントも複数のグループから出たが、そこは保護者の出番である。そして、ある程度安全な環境を作った上で、人間関係やコミュニケーションは子供たち自身で経験を通じて学べるようにするのが良いのではないか。

 

とはいえ、小学生は、気づかないうちに相手が傷つくことがあるというSNSの特徴を理解していない様子なので、始めのうちは気をつけて教えた方が良さそうだ。

 

トラブルに遭った時に誰に相談しますか?との質問には、保護者・家族と答えた人がどの学年でも最も多く、7割以上だった。「子供親とコミュニケーションをとらなくなった」のように、思春期ゆえなのかSNSの影響か区別できない問題や、「子供が知らない世界にいる」不安も挙がったが、やはり頼るのは保護者である。その点で安心した表情の人も多かった。そして、トラブルは誰にでも起こりうるので、保護者も心構えが必要だろう。

 

*    *    *

 

最後には、以前出張中に見かけたスウェーデンの新聞記事の内容を紹介した。
そこには、保護者へのアドバイスとしてこうある。

 

  • 知識を得る

さまざまなSNSの機能・使い方について情報を集めよう。子供にも教えてもらおう。

  • 親の心配していることを伝える

あなたが子供のSNS利用について心配していることは何かを話そう。その理由も説明しよう。

  • トラブルが起きた時に備える

子供がトラブルがあったときにどのように対処しているか聞こう。今後起きたときにどうするかも話し合っておこう。

  • トラブルを見たら行動するように

他の人がトラブルにあっていたら、親に言うように伝えよう。まわりでトラブルがあった時にどうすべきか話し合っておこう。

  • 責めない

子供が被害にあったときに、仮に本人が軽率だったとしても責めない。まずは何が起きたかを把握し、いっしょに対処して解決しよう。

 

子供といっしょにどうSNSと付き合っていくかという視点が良いし、参考になるアドバイスである。私も同じように子供の親なので、今回は講師と言いつつある意味では参加者でもあった。

 

| itoh-at-sie | イベント | 01:20 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
再びごみ分別の話
スウェーデンでの海外研修中に始めた家庭ごみ分別の研究は今も続けている。(過去の記事でも少し触れた)
それと関連して、今年のプロジェクト科目では3年生が家庭ごみの「雑紙」の分別を促進する課題に取り組んでいる。印西市と協力して始めたテーマである。

印西市の家庭ごみの組成分析によれば、「燃やすごみ」のおよそ3割が実はリサイクル可能な資源で、その3分の1(全体の12%)がいわゆる雑紙であるという。雑紙とは、新聞・雑誌・段ボール以外の紙全般を指す。新聞・雑誌・段ボールのようなかさがあってまとめやすいものと比べて、プリント、メモ、紙袋、レシートのような細々した紙類はついゴミ箱に捨ててしまいがちで、一枚一枚は小さくても、積もり積もって結構な割合を占めるようになる。
こうした雑紙の分別がどうしたら進むか?というプロジェクトである。
 
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【レシートをこうして捨ててはいけない!雑紙としてリサイクルできる】

というわけで、今日は夕方から勉強のために市が行っている「ごみの分別出前講座」を見学させていただいた。町内会の会合に市の職員と、講師をするクリーンアドバイザーと呼ばれるボランティアの方が出向くスタイルの講座で、テーブルの上に色々な種類のごみを並べ、どれをどこに出すか、分別回収された後でどのようにリサイクル・活用されるかを解説する。

30分ほどの講座だが、知らなかったことが多いのに驚く。分別の基本ルールは理解していても判断に迷うものがあって複雑である。
ペットボトルのリサイクルマークが付いていても、輸入製品に多い着色されたボトルは日本ではリサイクル不可であるとか、紙製のカップ麺容器は「紙」マークがあっても雑紙ではないとか(紙の含有量が多いため「紙」表示があるが、複合素材なのでダメ)、例外も色々ある。
また、技術が進歩しているので、以前はリサイクルに出せなかったものが今はリサイクル可能になっていたりもする。代表的なのはレシート(感熱紙)やカーボン紙(宅配便の伝票など)で、今は雑紙としてリサイクル可能である。僕は恥ずかしながら、レシートや伝票はリサイクルできないと思っていてずっと燃やすごみに入れていた。知識のアップデートも重要なのである。

ちなみに、学生は新聞・雑誌や布(服)が資源物回収に出せることを知らなかった。可燃・不燃ごみ・プラ容器包装は指定のゴミ袋があり、PETボトルやビン・カンも収集所に専用の袋がある。だからそれ以外の、専用袋がないものはごみ・資源収集に出せると思っていなかったと思っていたそうだ。理由を聞くとなるほど一理あり、リサイクルへの関心・意識の特に高くない普通の人にもどうやって分別してもらうかを考えるヒントになりそうだ。

以前も書いているが、精神論ではなく、情報提供と行動を刺激するような仕掛けからアプローチしてみたい。
 
| itoh-at-sie | 授業と教育 | 23:37 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ブログ復活ーワークショップ
一年近くブログを放置してしまいましたが、またぼちぼち書き始めます。
【今年も桜がきれいです】

恒例の新入生ワークショップ、昨年と今年は「手作業でアルゴリズミックデザイン」というテーマにしてみました。アルゴリズミックデザインとはコンピュータに計算の手続きに従って形を生成させるデザインの手法ですが、ワークショップではそれを原始的に、手作業で作っています。簡単な論理・規則を反復して立体を生成する仕組みを考えて、立体を作るのです。
 
【アルゴリズミックデザインの例(学生作品)】

これは手作業による「アルゴリズミック」デザイン。昨年の作品の一つ。
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| itoh-at-sie | 授業と教育 | 23:54 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
選挙の風景ースウェーデンで見たこと
12月14日に衆議院選挙があります。
とある大新聞のニュースサイトを見ていたら「投票する?」という企画記事が目にとまりました。以前から、選挙のたびに新聞やテレビで「選挙に行きますか」という質問がされているのを、おかしいと感じていました。個人が棄権するのは勝手ですが、メディアは「誰に投票するか」を論点にすべきであって、投票しない(つまり権利を放棄する)ことをまともな選択肢として提示してはいけないと思っています。
 
*  *  *

さて、9月にほぼ一年ぶりにスウェーデンに調査に行ってきました。その時にちょうど国政選挙が行われていました。その結果、左派連合が政権を担うことになったのは帰国後のニュースで知りました。

ただ、今日書くのは、政治の中身のことではなく(これも書きたいことはたくさんありますが)、街中で見た選挙の風景についてです。
 

【広場に並ぶ政党毎のブース】

出歩いていると、広場や駅前に小さな仮設の小屋が建てられ、色々な政党がそこで政策をアピールしているのが目に入ります。といっても、スピーカーを使った連呼はありません。政策ビラを配ったり、通る人に声をかけることはありますが、基本的には興味のある人が立ち寄って質問して話を聞くスタイルです。
市庁舎前や公園の広場のような人通りの多い場所では、全ての政党が一同に会してブースを出しています。夕方や休日には、けっこう賑わっています。学校の課題で調べているらしい中学生のグループもいて、ブースをまわってインタビューしたりもしています。
こういう風景はなかなか新鮮でした。
 

【コンテナを使った選挙運動小屋。若者が話を聞きに来ている。】

もう一つ面白かったのは、期日前投票所が、ターミナル駅やショッピングモールにあったことです。出かけたついでに、通りすがりに投票できるのです。
マルメ中央駅では、投票所がホールに面して設けられていました。見ている間にも旅行鞄を持った家族連れが投票してからホームに向かったり、カップルが「あ、投票しとこうか」と立ち寄ったりしていました。投票所のスタッフがみな若いのも目につきました。
コンコースでは政党が展示を出して政策をアピールしており、通る人に声をかけていました。ブースには、政策の内容を10数か国語で書いたファイルがあります。スウェーデン語が母国語でない市民も多いためです。
 

【中央駅の期日前投票所。左手にもブースが並ぶ。】

こういう風景を見て思うのは、選挙(政治)との「距離が近い」ことです。公約・政策を(都合のいいところだけ)スピーカーから聞かされるのでなく、こちらが聞きたいことを聞ける場が、そこらへんにあるのは、単純に良いと思うのです。日本でも、聞けば答えてくれるわけですが、手軽とは言いにくい。また、人が多く通りかかる場所に投票所がある効果は大きいはずです。うっかり忘れていても、あまり関心が高くない人も投票するチャンスが増えるわけですから。
投票率は85%でした。若年層も全体の平均と同じくらい高いのが特徴とのことです。
 
*  *  *
 
投票率が高ければ、政治家は幅広い階層の支持を得ることを考えなければなりません。低投票率が常態化すると、政治家、特に政権与党は投票率の高い層の方だけを見がちで、むしろ自分たちを選ぶ層以外は投票しない方がありがたいと考えるようになります。前回の衆院選では、60代の投票率が75%、20代は38%でした。政治家はどちらを向くでしょうか。

北欧は政治への信頼度が高いと常々感じます。これには様々な要因がありますが、有権者が高い関心を示すことで、政治家が信頼に足るように努力せざるを得ないことも、大きく影響していると思うのです。

というわけで、ブログを読んでくれている学生や卒業生の皆さん、選挙に行って意思表示をして下さいね。
 
| itoh-at-sie | 日々の出来事 | 19:16 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ルーマニアにて(後編)
今回の学会では、郊外住宅地の「プレイス・アタッチメント」(場所への愛着)について発表しました。この概念は、住んでいる場所への心情的な結びつきを表すもので、住環境の評価や、個人のアイデンティティとの関係などが長い間研究されています。

愛着は一般的には住まいや近隣、街、地域といったサイズの空間を対象にすることが多いのですが、最近は国というスケールに広げた研究もあります。今回も、ナショナル・アイデンティティ(wikipediaによれば「国民としての自己認識」)と、国や都市といった場所についての集合的記憶についての研究には考えさせられました。


【会場のWest University of Timisoara】

◎愛着と美化
さて、この研究者(Lewicka先生)が行った広範なアンケート調査の結果は、ナショナル・アイデンティティが、自国についての記憶の形成に至る経路が2種類あるというものです。分析によれば、自国に対する感情には「愛着」と「美化」の2つの面があります。場所への愛着は、歴史への関心を高め、負の側面も含めて記憶が形成されます。それに対して「美化」(glorfification)の方に向かうと、過去ではなく現在にのみ目を向け、都合のよい記憶が形成されるプロセスがあるというのです。

これは、最近の日本の社会・政治を見るにあたって示唆的です。
日本という場所(つまり土地や風土、社会、文化)にアイデンティティや愛着をもつ人は、負の歴史も含めて受け入れることができます。一方で、自身の帰属する国を美化したい時には、「美」化ですので、負の面を否定するか、なかったことにする力が働きます。今の日本で力を増しているのは後者だと感じるのです。

社会が不安定、不確実になると、ナショナリズムが台頭しやすくなります。ヨーロッパの国々は、ナショナリズムと排外主義の台頭にはひじょうに敏感に警戒します。国の美化を志向する心理的プロセスを理解することは、ナショナリズムに向き合い、対処するために必要です。この先生も、出身国ポーランドで第二次世界大戦前の歴史が忘却され、民族的バイアスが強くなっていることに危機感を持って研究をしていました。

◎共通言語としての英語
もう一つ、意識調査や心理評価の質問項目の言語間比較というものもありました。いろいろな国の研究者が皆、発表を英語でしますが、調査や実験ではそれぞれの母国語を使うことがほとんどです。僕も海外の論文を参考にアンケートやインタビューをしますが、質問は当然日本語に翻訳して使います。ところが言語によって同じ意味の単語でもニュアンスは異なり、直接対応する言葉がない場合もあります。

この発表は、異なる言語で行われた調査結果を比較して良いのか?を、英語のアンケートと、それを東欧語に訳したアンケートの回答を比較して検証したものでした。同じ内容の質問を、同じ人が時間をあけて母国語と英語でそれぞれ回答した結果の相関はきわめて高い、つまりほぼ同じ回答をすることがわかったそうです。したがって、英語で実施したアンケートを異なる国の間で比較しても、言語による結果への影響は無視できる程度に小さいことになります。

一方で、答えの内容・傾向は国によって違ったそうです。しかし、言語による影響がないことを確認しているので、その差は文化や生活スタイルなどの要因による違いということになります。

研究・学問の共通言語は英語になりつつあります。自分たちの研究をその土俵にあげようとすれば、英語で発信しなければなりません。建築学や心理学の世界では、調査はローカルな言語で行う必要があります。しかし調査結果の違いの原因が言語だとすると、他国・他言語で行われた研究と比較することができなくなります。

どの言語にも、他の言語に翻訳できない表現はあります。しかし、それを「文化」と呼んでそのままにしておく限り、研究は閉じた世界にとどまります。この発表からは、英語で発信するだけでなく、研究内容の面でも共通のプラットフォームを意識することの重要さが伝わってきます。異なる言語をもった多数の国が集まっているヨーロッパらしい研究だともいえます。


【帰路につく】
 
| itoh-at-sie | 出張 | 23:31 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ルーマニアにて(前編)
しばらくぶりの更新です。久しく書かない間にも多くの方がアクセスして下さり、感謝です。

先週は国際会議での発表のため、ルーマニアに行って来ました。訪問先は国の南西部の主要都市、ティミショアラ(Timisoara)。
東欧・中欧に行くのは初めてで、見慣れない建築様式が新鮮でした。旧市街地の広場や街路はそこらじゅう工事で掘り返していました。数年後のEUの文化首都になる予定で、それに備えているとのこと。ヨーロッパの都市開発の例に漏れず、EUの補助を受けたプロジェクトです。
この地方はハンガリー、オスマントルコ、オーストリアと何度も統治者が変わっており、歴史が何層にも重なっています。工事現場を見ると、掘り起こした下に現在のティミショアラ(といっても、数百年の歴史がある)とは街路の角度が違う都市遺構がのぞいています。意外なところでは、ヨーロッパで初めて電気の街灯が設置された市でもあります。

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【市で一番広い、そして最も美しい広場も工事中】

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【中心部の様子】

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【道路の下には遺構が】

宗教も多様で、カトリック、プロテスタント、ルーマニア正教の教会やユダヤ教のシナゴーグが中心部に集まっています。フィールドトリップのガイド氏(歴史家)は、この街は異なる宗教がお互いに寛容に共生しており、過去に宗教が絡む戦争に加わったことがないのは誇りだと説明していました。

ティミショアラはまた、1989年のルーマニア革命の発端になった街でもあります。ここで始まった市民デモが各地の都市、やがて首都にも波及し、長く独裁政治を行っていたチャウシェスク大統領が倒されました。博物館には、広場を埋め尽くす群衆や、大通りでの抗議運動の写真がありました。滞在中に何度も通った場所が、ほんの25年前には歴史の舞台だったのです。

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【革命博物館。手前にあるのはベルリンの壁の一部。】

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【オペラ座前の広場。右は革命時の写真。】

ルーマニア革命時は大学生になったばかりで、ニュースで見ていたのを覚えています。現地で会った同世代の人たちは、大学生の時に目の前で見ており、おそらくは抗議する群衆のなかにいたのです。そのせいか、建築家も研究者もガイド氏も、ある年代以上の人は、最近の出来事を語る時にも「革命から×年後」という表現を使うのが印象的でした。

 
| itoh-at-sie | 出張 | 23:32 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
新年度
新年度が始まりました。
正門の桜並木とオブジェが新入生を迎えます。

| itoh-at-sie | 日々の出来事 | 11:27 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ペーパークラフト


今日は「電大キッズセミナー」で、小学生がペーパークラフトで印西のまちを作りました。
ペーパークラフトキットは大学生が実物をモデルに設計したものです。セミナーでは一人一つでしたが、他も作ってみたい方のために、例年人気のあるものをダウンロードできるようにしました。
下記のリンクからダウンロード後、印刷してお使い下さい。

…古くなったので、ダウンロードリンクは削除しました。2015.7.30

 
| itoh-at-sie | イベント | 14:30 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ユーザになりきってみた
年内最後のゼミ。前回エントリで紹介した、上平先生の考案したサービススケッチツールを使ってみました。ちょうど教職課程の学生が作った教案(授業計画)を検討することになっていたので、これを使ってシミュレーションすることを思い立ったのです。ツールがもともと想定している使い方は、カフェのようなサービスが提供される場面ですが、授業もサービスの一種と考えてやってみました。


【先生と生徒たち】

検討するのは高校の「情報」の授業、ウェブでの検索の方法や仕組みを学ぶ回です。本人はもちろん教師役、ゼミ生と私の計4人が生徒役になって「授業」を演じました。

はじめに生徒役が「ペルソナ」を設定しました。架空の人物を作ろうとするとリアリティがなくなりそうなので、各自が高校生の時の同級生を一人選び、そのパーソナリティで演じることとしました。先生役以外はみな男子学生なので、男子校になってしまいました。ペルソナには名前をつけます。私は、高2、高3と隣の席に座っていたT君をモデルにしました。(もう20年近く会っていませんが、元気かなあ…)

先生はパワーポイントを映しながら説明をし、生徒役は自分の手元の人形(生徒)になりきって授業を受けます。授業の中には生徒がPCで検索する場面もあるので、そこは各自がスマホを使いました。机の上に模造紙を広げてタイムラインを書き、その上にそれぞれの人物の行動、発言、考えを書いたそばから並べていきました。授業はどんどん進むので、吹き出しに書いていくので忙しくなります。これはけっこうあわただしかった。途中で「ちょっとストップ」と時間の流れを止めることもありました。


【「授業」風景】

授業の構成は、基礎知識と理論的な解説の後に、「○○について知りたいときにどう検索するか?」を実習し、検索ワードの選び方や絞り込みを話し合うという展開です。序盤では、生徒は既にスマホ(PC)を手にしているので、説明を聞いているときにじれてきました。また、例題で出されたものを検索する場面では、授業では目的の情報にたどり着くところまでが課題なのに、そこから先のリンクをたどり、ウェブページを読み始めて授業を聞かなくなる生徒が出たりしました(T君こと私がそうでした)。先生の側では、予想したページが出ない(人によって検索結果が違う)、例題の答えを検索しなくても知っている生徒がいた、といった誤算がありました。

一通り授業が終わったところで、時間軸に沿って最初から振り返りました。上平先生の話では、ネガティブな感想が出たところを特に検討すべしということでした。
授業の組み立ては、理論→具体例(実習)という流れで、よく出来ていました。しかし、PCのように普段から使い慣れているものが手元にあれば、当然いじりたくなります。手元にPCがあるのに触ってはいけないストレス(「まだ?」「ヒマだ」)、いざ使って面白くなってきた頃にまた解説に戻るところでの物足りなさ(「もう終わり?」)がネガティブな思いとして出て、ここが生徒が脱線していくポイントでした。


【授業を振り返る】

振り返った結果、最初に課題を出してひとしきり作業をさせてから、それぞれの検索の手順や方略を報告し合う形式が良いかもしれないという結論になりました。つまり、実習の場合はトップダウン型ではなく、具体例(やってみる)→理論(仕組みの理解)というボトムアップ型に組み替えるのです。
そうすれば、PCを前にして触れないストレスもなく、検索したいエネルギーを先に発散するので、後半は落ち着いて解説が聞けそうです。

演じることで得られるのは、やはりリアリティです。ふだんのゼミのように、資料をもとにしてディスカッションをしても似た結論になったかもしれません。しかし、このツールを使って演じることで、うまくいかないポイントが想像上のものではなく、実際に起きるのです。問題「かもしれない」ではなく、目の前で「うまく行かない」わけですから、先生役も納得する度合いが全然違いますし、なぜそうなったかを議論しやすい利点があります。
また、時間の流れがあることも大きな特徴です。人物になりきって授業という状況に身を置くと、授業中に他のことを考えたり関係のないことをしたり、先生と生徒のやりとりが想定外の方向に行くこともあります。これはディスカッションだけでは出てこない、リアルな行動です。
また、A君、B君、と名前をつけることでなぜか親近感がわき、なりきるのが楽しいので盛り上がりました。

先生役の学生は、うまく行かないポイントがたくさん出てくるのを気にしていました。しかし、問題を発見できることが大事なのです。もともとの教案がきちんと作られていたからこそ、このようにシミュレーションをして課題を洗い出すことができたわけで、それを楽しくできるのも、このツールの良さだと思ったゼミでした。

では、皆様よいお年をお迎え下さい。
| itoh-at-sie | 授業と教育 | 22:32 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
ユーザ中心デザインのためのツール[特別講義]
久々の更新です。
水曜日に「ユーザ中心デザインをめぐって」と題して、特別講義を開催しました。
講師は来日中のコペンハーゲンIT大学Lene Nielsen先生、ゲストコメンテーターとして専修大学ネットワーク情報学部の上平崇仁先生、そしてわが情報環境学部の武川先生を招いて議論をしました。
学生・教員合わせて50人以上が参加して大盛況でした。



ニールセン先生は「ペルソナ」の専門家。ペルソナとは、ウェブシステムなどを設計する時に用いる、ユーザを表す人物像のことです。架空のキャラクターながら、統計データやインタビュー調査をもとに作り上げるリアルな人物像です。例えば「ハンス・アンダーセン、34歳、銀行員…」のようなプロフィールから始まり、好きなもの、生活習慣、休みの日の過ごし方、将来の計画などなど、その人となりを表す情報一式からなります。顔写真もあります。


【ペルソナの例】
(Nielsen, Lene (2013): Personas. In: Soegaard, Mads and Dam, Rikke Friis (eds.). "The Encyclopedia of Human-Computer Interaction, 2nd Ed.". Aarhus, Denmark: The Interaction Design Foundation.より引用)
http://www.interaction-design.org/encyclopedia/personas.html

こうしたペルソナを何種類か作り、「この人たちのために」設計をするのです。ニールセン先生はデンマーク企業・政府機関や自治体でのペルソナの使われ方について話しました。ペルソナの最大のメリットは、開発者間でユーザの話をするときの共通言語になるということでした。「アレックス(←あるペルソナの名前)ならこういう時にどうすると思う?」のように話題にでき、イメージや課題を共有しやすくなるのです。新しく開発チームにメンバーが加わった時にも、グローバル企業が海外に業務を発注するときにも、すぐにユーザ像を共有できます。
しかし、ペルソナがステレオタイプになってはいけません。「スポーツマン」と決めたとたん、その人の全てをスポーツマンらしく描いたペルソナはリアリティが欠如します。人間には色々な面があり、様々な側面を併せもつ人としてイメージできることが必要なのです。また、経験上ペルソナは6~8人分がちょうど良く、それを超えると多すぎるそうです。しかし上手にペルソナを作れば、多くのユーザを数人のペルソナに集約することも可能だと言います。デンマークの公共サービスを電子化する際には、全国500万人の人口を6つのペルソナに代表させて設計したとのことでした。
企業が独自に、ペルソナの使い方を発展させることも多いそうです。休暇の写真が旅行先から、進行中のプロジェクトで使っているペルソナになりきって絵葉書を出すとか、ペルソナの住む部屋やオフィスを実際に設営して、そこに座ってその人物になりきるといった、面白い話がありました。

上平先生のお話は「サービススケッチツール」という、サービス開発のための方法についてでした。マンガのようなかわいらしいキャラクターと吹き出しを紙から切り出し、これを使って、例えばカフェに入店してから食事をし、退出するまでをシミュレーションします。面白いのは、ユーザ(来店者)だけでなく相手になる店員もここには登場して、やりとりをシミュレーションするところです。こうして新しいアイデアが「どう経験されるか」を試したり、客がネガティブな感情・印象をもちやすい場面を抽出して改善したりするのです。


【上平先生のプレゼンテーション。映っているのがサービススケッチツール】

ペルソナが人物像から出発するのに対して、このツールは人物像をその場で設定して、動かしていくシナリオ、シークエンスの方に重点を置いているのが特徴です。ユーザが「どのような人か」を表すがペルソナとすれば、サービススケッチツールは「その人が何をして、何を思うか」を考えるものだといえるでしょう。

最後に、武川先生はロボットの話。ただし、ロボットそのものではなく、いかに会話に自然に参加できるロボットの行動をデザインするか、という視点です。人間どうしの会話には、時々「気まずい沈黙」ができます。そのときに人間はしばしば頭をかくとか、あごをなでるといった動作で沈黙を埋めますが、これがどのようなサインになるのか、どのように会話に影響するのかを調べた実験を紹介しました。こうした人間行動の特徴を知ることで、自然に行動できるロボットを作ることができるのです。

いずれも情報系の話題ですが、デザイン全般、建築設計にも応用できます。実際、建築計画ではユーザの行動・視点は古くから重要な研究テーマでしたし、設計では常にユーザを考えます。しかし、この日見たようにユーザを生き生きとした人物としてイメージするツールを設計の場面で使うのはあまり聞いたことがなく、建築の設計課題でも使ってみたいと思いました。

それぞれが異なる方法・対象で研究していますが、ニールセン先生は最後に「共通するのは、他の誰かになって演じるという点ですね」とまとめました。たしかに、ユーザ役になる、ロボットが人間を演じる…どれも「acting」なのでした。
皆様、ありがとうございました!

 
| itoh-at-sie | イベント | 14:53 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -
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